イヌクの手の缶ビールとスジョンのしおらしさを装った顔を見た瞬間、イヌクへの怒りが弾けた。
イヌクに直接言えないのは ヨンジュの最初の男だから そして奪うことはできなかったから。
「お前たち 同棲中か?」「前からの知り合いか?」認めたくないから 嫌がせを言ってみる。
イヌクがいなかったら 俺はスジョンに何を求めたんだろう。
お金にかこつけて逢いたがっている気持ちは 金持ちの道楽?只より高いものはないの証明?
イヌクに負けたくない 嫉妬心だけで 「金を返してもらいたいから 明日から出社しろ!」って怒鳴ってしまった。
お前には出来ないことを 俺はできると 見せ付けたくて 言ってしまった。
負けてるんだよなぁ~勝ちたいと想う傍から負けている。
小さい頃からそうだった 使用人の子供達と遊ぶ機会があると 妙に神経が高ぶった、奴らが 銘々に 俺の宝物をくすねて それでいて 決して自分の宝物にせず 帰り道に投げ捨てるのを知っている。
彼らの宝物は もっと特別で お金持ちの宝物なんて言うほどのものでないと。
スジョンを見ると良くわかる、お前の着ているそのジャンパーを束で買えるほどのコートを買ってあげたって、キャッシュだったらモット良かったのにだろう・・貧乏人の消費の基準は理解できないだろうと 二人に言われているようなものだ。
あいつらには 金持ちが貸す金なんだから 痛くない 借りたが勝ち。
「こんな 街があったんだぁ~ いい眺めだなぁ~」なんと言って良いのか・・何も言うべきでなかったのに 思わず感嘆、本音だった 怖かった。
此処に人が住んでいる どうやって まともに歩ける場所まで行けれるのか。
大の男が 韓国有数の会社に勤めて それも ヘッドハンティング並の扱いで迎えられて この 断崖絶壁の額ほどの土地に屋台みたいに並んだ家にしか住めない理由は何なんだ?
ア~ァ また 弱みが とんでもないものを背負い込めば 親父も兄貴も黙っていないだろう、アルバイトで雇って お金を貸してあげて 今までも何回もやってきたことでも こっぴどく殴られるのは避けられない。
ヨンジュとの結婚破棄を請け負っておきながら まだ親父には言えないでいる。
兄貴に頼むしかないが この兄貴が俺に対抗しているのが面白い 馬鹿同士の戦い?
スジョンを無理やり 総務部に押し込んだが イヌクにまんまと嵌められた気分だ、スジョンを見てもわざとそっけなくするのは 見くびられたくないから?
それも 変なんだよなぁ~イヌクに負けたくない お前なんか興味ないヤァ~と言いながら 金を貸して職を世話して それって 誰が見たって 興味在りますって宣言してるはずなのに イヌクもスジョンも 俺たち貧乏人はそのルールは認めないと、在るところかな無いところへ流れるのは自然の摂理と言っているようなものだ。
会議室で居眠りしてたら 退社時間をとっくに過ぎていた、誰も俺の事なんか気にもしない。
慌てて飛び出したら スジョンとバッタリ。
コイツも 居眠りして忘れ去られるような奴、男を見れば喜ばすようなことを平気で口にする。
「お礼におごります」 社交辞令なんだよなぁ~それでも コイツとご飯が食べたかった、無心に食べて飲んでる顔を見れれば 都合の良い男で構わない。
酷いことを言ったり しようとしたら 軌道修正したくなる あの「目」、自分でも気付いてるんだ あの「目」で俺だけを見ていて欲しい。
おごりだからとバンバン頼んだら ドギマギして見せる その心根が好きだ、俺が払うってわかっても 取りあえず 心底心配する演技も好きだ。
今日学んだ事は 聞きたくない事は質問するな!だったなぁ~イヌクの事など端から聞くべくでなかった・・「イヌクさんとはバリでもお隣同士で、ソウルで居候していたらお隣に引越ししてきて・・運命です」運命だと再三繰り返して テーブルひっくり返すのを押し留めるのが精一杯、笑いたかったのに 笑って欲しかったのに 俺って最低。
ヨンジュの奴・・頭にきた 会社まで押しかけてきて 結婚破棄を取り消し!
取り消しの取り消しをするとは、イヌクに嫌われたか?俺の気持ちが変わったからか?
エレベーターにイヌクが乗ってきた、イヌクもヨンジュも誰もいないかのように振舞える。
どうしてこいつらは こんな風に全てを見ないで聞かないで言わないで生きられる。
「チキショウ お前には ほとほと 愛想が尽きた」 負け犬が吼える 吼えてやる。